むし歯予防
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[[画像:むし歯のでき方.jpg|right|thumb|㈱サンギ提供]]むし歯は、いろいろな要因が複雑に絡み合って起きる病気です。むし歯に関しては、カイスという研究者がむし歯にかかる因子を3つ(①歯、②細菌、③食べ物)挙げ、この3つの要因が全て重なり合なりあったときに起こることを提唱しました。 | [[画像:むし歯のでき方.jpg|right|thumb|㈱サンギ提供]]むし歯は、いろいろな要因が複雑に絡み合って起きる病気です。むし歯に関しては、カイスという研究者がむし歯にかかる因子を3つ(①歯、②細菌、③食べ物)挙げ、この3つの要因が全て重なり合なりあったときに起こることを提唱しました。 | ||
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①歯については、当然ですが、歯が無ければむし歯は出来ないからです。 | ①歯については、当然ですが、歯が無ければむし歯は出来ないからです。 | ||
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②細菌については、口の中には多くの種類の細菌が棲んでいますが、その中でもミュータンス菌と呼ばれるむし歯の原因菌が棲んでいるとむし歯になることが明らかになったからです。 | ②細菌については、口の中には多くの種類の細菌が棲んでいますが、その中でもミュータンス菌と呼ばれるむし歯の原因菌が棲んでいるとむし歯になることが明らかになったからです。 | ||
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③食べ物については、ヒトが摂取する糖分が、むし歯菌を成長させる栄養分になっていることが分かっているからなのです。 | ③食べ物については、ヒトが摂取する糖分が、むし歯菌を成長させる栄養分になっていることが分かっているからなのです。 | ||
- | この3つの要因が全て揃わないとむし歯にはならないので、極端なことを言ってしまえば、砂糖の入ったお菓子をどんなに食べても、全く歯を磨かなくても口の中にむし歯菌がいなければむし歯にはならないのです。逆に、口の中がむし歯菌でいっぱいだとしても、(現実的には無理なことですが)むし虫歯の原因になる食べ物(甘い物だけではありません)を全く食べなければ、やはりむし歯にはなりません。3つの条件のうちのどれかをなくすことは現実的には難しいので、この3つの条件の輪を小さくすることで、むし歯予防ができるのです。 | ||
+ | この3つの要因が全て揃わないとむし歯にはならないので、極端なことを言ってしまえば、砂糖の入ったお菓子をどんなに食べても、全く歯を磨かなくても口の中にむし歯菌がいなければむし歯にはならないのです。 | ||
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+ | == むし歯の要因 ①歯 == | ||
+ | まず①の歯ですが、これには歯の質(強さ)、唾液の性質、歯並び、年齢などの条件が関係してきます。 | ||
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+ | 歯の質を強くするためには、[[フッ素]]が有効であることが知られています。[[フッ素]]は歯の主成分である[[ハイドロキシアパタイト]]に作用して、フルオロアパタイトを作ります。これにより、歯の表面で細菌が作り出す酸に対する抵抗性を向上させます。 | ||
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+ | 歯にフッ素を塗ることで、ある程度はむし歯に対する防衛力を増すことは可能ですが、これだけでは完全にむし歯を予防することは出来ません。 | ||
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+ | また、歯が生えたばかりの小さい子どもは、エナメル質が完全に成熟しておらず酸に対する抵抗力が弱いので、磨き残しやすい奥歯の噛み合わせの部分を、樹脂やセメントで封鎖してしまう予防措置(フィッシャーシーラント)もあります。 | ||
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+ | ②の細菌ですが、むし歯を引き起こす主な細菌はミュータンス菌です。 | ||
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+ | 口の中のミュータンス菌の数とむし歯のなりやすさには関連があり、ミュータンス菌の数が多いとむし歯になりやすいことが知られていますので、これらの菌を少しでも減らすことが重要です。 | ||
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+ | 菌の棲み家である歯垢は、歯の噛み合わせの部分の溝、歯と歯の間、歯と歯茎との境目、歯並びが良くないなど、[[歯ブラシ]]の届きにくい清掃困難な歯面に付着しやすいので、気を付けてみがくことが大切です。 | ||
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+ | ③の食べ物ですが、むし歯菌のミュータンス菌は糖分を栄養源としています。 | ||
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+ | 食べ物に含まれている糖分が口の中に入ってくるとミュータンス菌の活動が強まり、菌の数を増やすために糖分を取り込み、分解してエネルギーと酸を作り出します。このミュータンス菌の作り出す酸によって歯が溶かされて、むし歯になるのです。一般的に、細菌は糖分からエネルギーと酸を作り出しますが、キシリトールのような代用甘味料と呼ばれる糖分を取り込んだ場合では、細菌はこれらを作り出すことが出来ません。 | ||
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+ | 細菌の体内では代用甘味料を分解することが出来ないからです。ですから、むし歯の予防には砂糖等の代わりに代用甘味料を使った食品を摂取することは有効です。 | ||
- | + | また、細菌が代用甘味料を取り込むと、エネルギーを取り出すことが出来ないので、自身のエネルギーを費やすことになってしまいます。その結果、だんだんとその数が減少していく効果もあります。 | |
+ | 食べ物から完全にう蝕を誘発する糖分を取り除くことは不可能なことですので、1日3回の食事にまで代用甘味料を考える必要はなく、間食等には代用甘味料を積極的に摂取することが良いのではないでしょうか。 | ||
- | + | また、食べ物を摂取する回数も、う蝕の予防には重要です。食べ物を摂取すると、口の中のpHが低下するので、歯の表面からカルシウムやリン酸が溶け出していきます。これを「[[脱灰]]」と言いますが、この状態が長く続くと、初期のう蝕になり、次第に穴の開いたむし歯へと進行してしまいます。 | |
+ | しかし、口の中では唾液の緩衝作用という酸性から中性へと少しずつ戻っていく作用があります。カルシウムとリン酸が溶け出すのを抑えるのと同時に、脱灰した歯にカルシウムとリン酸を供給して歯を修復して健康な状態へと戻していきます。これを「再石灰化」と言います。 | ||
- | + | 唾液は、むし歯を予防してくれる能力を持っていますが、時間を決めずに、ダラダラ食いをしていては口の中が常にむし歯になりやすい状態になってしまいます。砂糖の量を制限することも大事ですが、規則正しく時間を決めて食事を取ることもとても大切です。 | |
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[編集] むし歯予防
むし歯は、いろいろな要因が複雑に絡み合って起きる病気です。むし歯に関しては、カイスという研究者がむし歯にかかる因子を3つ(①歯、②細菌、③食べ物)挙げ、この3つの要因が全て重なり合なりあったときに起こることを提唱しました。
①歯については、当然ですが、歯が無ければむし歯は出来ないからです。
②細菌については、口の中には多くの種類の細菌が棲んでいますが、その中でもミュータンス菌と呼ばれるむし歯の原因菌が棲んでいるとむし歯になることが明らかになったからです。
③食べ物については、ヒトが摂取する糖分が、むし歯菌を成長させる栄養分になっていることが分かっているからなのです。
この3つの要因が全て揃わないとむし歯にはならないので、極端なことを言ってしまえば、砂糖の入ったお菓子をどんなに食べても、全く歯を磨かなくても口の中にむし歯菌がいなければむし歯にはならないのです。
逆に、口の中がむし歯菌でいっぱいだとしても、(現実的には無理なことですが)むし虫歯の原因になる食べ物(甘い物だけではありません)を全く食べなければ、やはりむし歯にはなりません。
3つの条件のうちのどれかをなくすことは現実的には難しいので、この3つの条件の輪を小さくすることで、むし歯予防ができるのです。
[編集] むし歯の要因 ①歯
まず①の歯ですが、これには歯の質(強さ)、唾液の性質、歯並び、年齢などの条件が関係してきます。
歯の質を強くするためには、フッ素が有効であることが知られています。フッ素は歯の主成分であるハイドロキシアパタイトに作用して、フルオロアパタイトを作ります。これにより、歯の表面で細菌が作り出す酸に対する抵抗性を向上させます。
歯にフッ素を塗ることで、ある程度はむし歯に対する防衛力を増すことは可能ですが、これだけでは完全にむし歯を予防することは出来ません。
唾液の性質が悪かったり、流量が少ないと口の中の洗浄効果が期待できませんし、また、歯並びが悪くても、口の中にいわゆる「食べカス」が残りやすいので、歯並びもむし歯の予防には重要なのです。
また、歯が生えたばかりの小さい子どもは、エナメル質が完全に成熟しておらず酸に対する抵抗力が弱いので、磨き残しやすい奥歯の噛み合わせの部分を、樹脂やセメントで封鎖してしまう予防措置(フィッシャーシーラント)もあります。
[編集] むし歯の要因 ②細菌
②の細菌ですが、むし歯を引き起こす主な細菌はミュータンス菌です。
口の中のミュータンス菌の数とむし歯のなりやすさには関連があり、ミュータンス菌の数が多いとむし歯になりやすいことが知られていますので、これらの菌を少しでも減らすことが重要です。
菌を減らすためには、歯ブラシを使った日々の歯みがきがとても重要です。殺菌剤の入った洗口剤なども有効ですが、歯みがきがきちんとできていないと汚れが邪魔をして洗口剤の効果が十分に発揮されません。
菌の棲み家である歯垢は、歯の噛み合わせの部分の溝、歯と歯の間、歯と歯茎との境目、歯並びが良くないなど、歯ブラシの届きにくい清掃困難な歯面に付着しやすいので、気を付けてみがくことが大切です。
自分でみがいているだけでは十分にみがけているかどうか不安だと思う場合は、歯科医院でブラッシングの指導を受けたり、クリーニングをしてもらうこともよいと思います。
[編集] むし歯の要因 ③食べ物
③の食べ物ですが、むし歯菌のミュータンス菌は糖分を栄養源としています。
食べ物に含まれている糖分が口の中に入ってくるとミュータンス菌の活動が強まり、菌の数を増やすために糖分を取り込み、分解してエネルギーと酸を作り出します。このミュータンス菌の作り出す酸によって歯が溶かされて、むし歯になるのです。一般的に、細菌は糖分からエネルギーと酸を作り出しますが、キシリトールのような代用甘味料と呼ばれる糖分を取り込んだ場合では、細菌はこれらを作り出すことが出来ません。
細菌の体内では代用甘味料を分解することが出来ないからです。ですから、むし歯の予防には砂糖等の代わりに代用甘味料を使った食品を摂取することは有効です。
また、細菌が代用甘味料を取り込むと、エネルギーを取り出すことが出来ないので、自身のエネルギーを費やすことになってしまいます。その結果、だんだんとその数が減少していく効果もあります。
食べ物から完全にう蝕を誘発する糖分を取り除くことは不可能なことですので、1日3回の食事にまで代用甘味料を考える必要はなく、間食等には代用甘味料を積極的に摂取することが良いのではないでしょうか。
また、食べ物を摂取する回数も、う蝕の予防には重要です。食べ物を摂取すると、口の中のpHが低下するので、歯の表面からカルシウムやリン酸が溶け出していきます。これを「脱灰」と言いますが、この状態が長く続くと、初期のう蝕になり、次第に穴の開いたむし歯へと進行してしまいます。
しかし、口の中では唾液の緩衝作用という酸性から中性へと少しずつ戻っていく作用があります。カルシウムとリン酸が溶け出すのを抑えるのと同時に、脱灰した歯にカルシウムとリン酸を供給して歯を修復して健康な状態へと戻していきます。これを「再石灰化」と言います。
唾液は、むし歯を予防してくれる能力を持っていますが、時間を決めずに、ダラダラ食いをしていては口の中が常にむし歯になりやすい状態になってしまいます。砂糖の量を制限することも大事ですが、規則正しく時間を決めて食事を取ることもとても大切です。