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むし歯 - オーラルペディア

むし歯

出典: オーラルペディア

版間での差分

2008年3月1日 (土) 00:45の版


目次

初期むし歯

初期むし歯㈱サンギ提供
初期むし歯㈱サンギ提供
むし歯とは、歯にぽっかり穴があいてしまい、黒くて痛くなるところだと誰もが分かるでしょう。では、最近よく聞く「初期むし歯」とは何でしょうか?これを理解すると、自分の大切な歯をむし歯から守ってあげることができます。

なぜなら、初期むし歯とは、穴があいてしまい、歯医者さんの治療が必要となるむし歯より一歩手前の状態で、まだ自然治癒が可能な段階だからです。初期むし歯の状態は、歯の表面の少し内側からミネラル成分が溶け出す脱灰によって起きます。そのままミネラル損失が続くと、やがて歯の表面に穴があいて、実際のむし歯になってしまいます。

初期むし歯も実際のむし歯も、その発生のメカニズムはいっしょです。お口の中には、むし歯の原因となる細菌やその細菌の栄養となる糖分がなければ、むし歯にはなりません。むし歯の元凶であり、主な原因菌とされているミュータンス菌は、歯の表面で増殖し、糊状の物質(不溶性グルカン)を作り、歯に強固に付着する歯垢を形成します。 そして、この歯垢の中でさらにミュータンス菌が栄養となる糖分を分解し、酸を作り出して、歯のハイドロキシアパタイト結晶を溶かしてしまいます。このようにできる表層下脱灰層は初期むし歯のことで、肉眼的に区別しにくいものですが、歯の表面の白く濁った白斑のように見えます。

ここで一番重要なのは、初期むし歯は実際のむし歯への進行を防ぐことができる、ということです。まず細菌の住みかである歯垢を(特に歯と歯とのあいだの隙間から)除去し、脱灰層にミネラルを運ぶ唾液が接しやすい状態にすることが大切です。また間食や糖分の摂取を減らすこと。食後の歯みがきをきちんとすることは、初期むし歯を健全な歯へと回復(再石灰化)させることなのです。もちろん再石灰化を促進するフッ素や再石灰化効果のある薬用ハイドロキシアパタイトが配合されている歯みがき剤はお勧めです。

 脱灰 

脱灰のイメージ図㈱サンギ提供
脱灰のイメージ図㈱サンギ提供
私たちが食事をした後、お口の中では、微細ですが劇的な変化が起きます。歯垢中の細菌が、食べ物の糖(炭水化物)を摂り込み、酸を作り出します。そしてこの酸が歯のエナメル質を溶かしてしまいます。大人の成熟した健康なエナメル質では、pH 5.5~5.7以下になるとエナメル質を構成しているハイドロキシアパタイトの結晶からカルシウムイオンとリン酸イオンが溶け出して、「脱灰」という現象が起こります。

脱灰が起こる場所は、エナメル質に付着した歯垢のすぐ下で、表面からではなく、表層の少し内側からです。そこで生じる「表層下脱灰層」というのは初期むし歯のことです。歯のレントゲン写真(CMR画像)の黒い部分は初期むし歯で、実際のむし歯になる一歩手前の状態です。肉眼では区別しにくいのですが、健康なエナメル質と比べて初期むし歯のとことは白く混濁していて、白斑のように見えます。これは脱灰によりエナメル質の微小構造が乱れ、光の透過や屈折が悪くなり、本来の透明感と輝きが損なわれてしまったためです。 

食後、唾液の働きで、酸性となっていたお口の中は中性側に戻り、また脱灰されていたエナメル質にはカルシウムイオンとリン酸イオンが補給され、再石灰化が起ります。しかし、間食が多くお口の中の酸性状態が長く続いたり、また歯面に歯垢が付着したままにしておくと、脱灰がさらに進行し、唾液がついて行かず、実際のむし歯になってしまいます。


 白斑 

画像:ヒト抜去歯の白斑.jpg
ヒト抜去歯の白斑㈱サンギ提供
白斑はエナメル質表面で見られる白色不透明な斑です。白斑はエナメル質の初期う蝕でみられ、脱灰によりエナメル質表面や表層下に微小な凹凸が形成され、光の反射に変化が生じた結果です。脱灰エナメル質の再石灰化が促進すると、失われた脱灰部全体のミネラルが供給され回復し、この状態になると白斑は、色調もミネラル量も健全歯なみに回復するようになります。

むし歯の進行 

㈱サンギ提供
㈱サンギ提供
歯科検診のときに、歯医者さんから「C1 (シーワン)」などという言葉がよく聞こえます。この「C」は、Caries(カリエス=むし歯)の頭文字で、1~4までの数字でむし歯の状態を表し、数字が大きくなるほど、むし歯が進行していることを表します。実は、初期むし歯も「C」を使って表されますが、歯にはまだ穴があいておらず、再石灰化で元の健康な歯に回復することが可能なことから、「CO(シーオー)」、Caries Observation(カリエス・オブザベーション)と表し、いわゆる観察が必要な歯(要観察歯)として扱われています。

穴のあいてしまった実際のむし歯には、様々な段階があります。 一番程度の浅いC1 は、むし歯の進行がまだエナメル質にとどまっている状態です。この時点では特に痛みを感じませんが、エナメル質には穴が開き変色も生じるので、目で見てむし歯になっていることが分かります。ちなみにむし歯の部分が茶色や黒に見えるのは、食べ物の色素やむし歯菌などの細菌が出す色素が沈着するからです。治療としては、エナメル質の腐った部分を削除し、充填剤で穴を埋めます。

C2 は、エナメル質を越えて象牙質にまでむし歯が進んだ状態です。歯髄(歯の神経)に近づくにつれて、冷たいものがしみるようになり、痛みの自覚症状が現れてきます。治療は、むし歯の部分を大きく削り取って、金属やセラミックス、樹脂などを詰めます。

C3 は、象牙質が破壊され、歯髄にまで到達して炎症(歯髄炎)が起きている状態です。この状態まで進行すると神経を直接刺激するため、激痛を伴います。治療は、歯髄を取り除き、歯の腐った部分を被せ物(クラウン)で入れかえます。

C4 は、歯肉よりも上の部分が崩壊し、歯の根の部分にまで進行した状態です。歯根部分にまで細菌が入り込むと、歯髄が炎症を起こして死んでしまうため痛みは逆に感じなくなります。しかし根の先端の部分に膿(うみ)の袋が出来る場合があり、噛んだときに痛みを感じます。ここまでむし歯が進行すると歯を残すことは難しく、抜いてしまう場合がほとんどです。

以上のように歯に穴の開いてしまったむし歯は初期むし歯と異なり、成分補給による修復や唾液の自然治癒はなく、治療が必要です。初期むし歯が実際のむし歯に進行する前に再石灰化でその進行を防ぐことが大切です。



 ステファンカーブ Stephan Curve 

画像:再石灰化.JPG
㈱サンギ提供
㈱サンギ提供
㈱サンギ提供
1940年にStephanがヒトの歯垢のpH変化を最初に測定した。プラーク中のpHの変化を表したものをステファンカーブという。

プラーク中に存在する細菌が口腔内の糖を分解して酸を産生する。その酸により口腔内のpHは急激に低くなるが、唾液の緩衝作用によって徐々にもとの状態に回復する。 このpH変化は、飲食物の炭水化物、プラーク中の細菌の種類及び量、唾液の分泌速度と緩衝能に大きく影響される。とくにpHの回復に唾液は非常に重要な働きをしている。





口腔内においてpHの低い状態が一時的なものであれば、唾液緩衝能により酸性から中性域に戻り再石灰化が起こりう蝕にはならない。間食をしたり飲食を続けていると、口腔内ではpHの低い状態が続き、再石灰化の生じる時間がなく初期むし歯が発生する。


 むし歯菌 

画像:ミュータンス連鎖球菌.jpg
ミュータンス連鎖球菌㈱サンギ提供
お口の中には、約500種類の細菌が共生しています。唾液1 ml中には1億個以上という、想像もつかない数になっています。これらの口腔常在菌は、一定した存在比率を保った口腔内細菌叢(口腔内フローラ)を形成していますが、その中には私達の健康に役立つ善玉菌もいれば、むし歯や歯周病を引き起こす悪玉菌もいます。よく知られているのが、むし歯の原因菌の代表であるミュータンス菌(Mutans Streptococcus系)です。

ミュータンス菌は、歯の表面に付着して初めて増殖できるという特性があり、生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中にはまだミュータンス菌はいません。それは歯が生えていないのでミュータンス菌が付着できないからです。しかし、乳歯が生える生後半年頃から、親が噛み砕いた食事を与えることなどによってミュータンス菌が子供に移ると、歯に付着して増殖します。つまり、むし歯の発生は感染症によるものです。

ミュータンス菌は0.5~10μmの球状の菌体が横につながった連鎖球菌で、以下のような特徴があります。 1.歯面への強い付着能 菌体表層に存在するタンパク抗原(PAc)で歯面に付着する。グルコシルトランスフェラーゼ(GTF)酵素でショ糖から粘着性の高いグルカンを産生する。 2.強い酸産生能 ショ糖、ブドウ糖、果糖から乳酸を産生する。また、環境にショ糖などが豊富な場合は菌体内に多糖体として貯蔵し、環境に糖がない場合は貯蔵しておいた多糖体から酸を産生し続ける。 3.歯面でのバイオフィルム形成能 産生したグルカンによって、口腔内の菌体を付着、増殖させデンタルプラーク(バイオフィルム)を形成する。 特に、う蝕原因菌の病原性は、食物中の糖分から非水溶性グルカンという物質を産生するところにあります。非水溶性グルカンは粘着性が高く、きわめて固体に付着しやすい多糖体で、水に溶けません。う蝕原因菌の存在比率が高いバイオフィルムでは、それらが産生した酸が唾液などの外部刺激によって拡散することなく、その濃度が上昇し、歯のエナメル質を溶かしてう蝕を引き起こします。

また、口腔内のう蝕原因菌の数量とう蝕のなりやすさ(う蝕リスク)には関係があり、唾液1mLあたりの菌数が103~106個の範囲ではう蝕リスクの低い環境といえますが、106個を越える場合ではう蝕リスクの高い口腔環境であると言えます。 その他、乳酸桿菌(ラクトバチルス菌:Lactobacillus)は、酸を産生する性質をもつものの、感染の第1歩である歯面への定着性が低いため、平滑歯面におけるう蝕原因菌とは考えられていません。しかし、エナメル質や象牙質のう蝕部から高頻度で検出されているため、う蝕の拡大に関与していると考えられています。


 むし歯菌の親子感染 

近年、むし歯は「感染症」という病気の一種であることが分かってきました。「感染症」とは、細菌、ウイルスなどの病原体が体内に侵入し、増殖することにより引き起こされる病気を言います。

むし歯は、病原体であるミュータンス菌が、ある日どこからか、お口の中に侵入して棲みつくことにより発症します。赤ちゃんは無菌的な状態で生まれてくるので、生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中を調べてみてもミュータンス菌は一つも存在しません。ミュータンス菌がいなければむし歯にならないはずなのに、どうしてむし歯になってしまうのでしょうか?

それは、ミュータンス菌は唾液によって人から人へと伝播(でんぱ)していくからです。特にお母さんから子どもへの感染(母子感染)が一番多いようで、食事の時に同じお箸やスプーンをお母さんと子どもが一緒に使うことで、子どもへ伝播することが分かっています。ミュータンス菌は、硬い組織(歯のエナメル質)にしか定着できないという特徴を持っているので、歯の生えた1歳半~2歳半頃(この期間は「感染の窓」と呼ばれています)に感染することも分かっています。

ミュータンス菌が多く、むし歯の多いお母さんは、大切な子どもの歯を守るためにも、歯医者さんでむし歯を治療したり、歯のクリーニングをするなど、自分のお口の中を、むし歯になりにくい環境に整え、健康管理や生活習慣に十分気を付けることがとても大切です。ミュータンス菌は、赤ちゃんに歯が生えてくるのを待っているのかも知れません。

むし歯予防のプログラムを実施し、ミュータンス菌を減らしたお母さんからは、子どもへの感染が低下することも分かっているので、お母さんのお口の状態が子どもに影響を与えることは明らかです。子どもたちがむし歯になるのは、実はお母さんのせい?だなんて考えたら、日々の歯みがきも疎かにできませんよね。むし歯の原因となるミュータンス菌は、歯垢(プラーク)中に住み着いていますので、日々の歯みがきでしっかりと歯垢を取り除くことが重要です。


 その他 

個人用ツール

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